システム開発 — 2026.08.19
函館の水産加工業のDX|原料が毎年変わる現場の仕組みづくり
「去年の表が、今年はもう使えません」
函館で水産加工を営む事業者の言葉です。
函館ではスルメイカの不漁が続き、加工品の原料をサバなど別の魚種に切り替える動きが出ています。
原料が変われば、歩留まりも仕入れ値も工程も変わります。
この記事では原料が毎年変わる現場に既製の生産管理が合わない理由と、どこから小さく作ると効くのかを整理します。
要点:既製の生産管理は決まった材料から決まった比率で製品ができる前提で作られています。水産加工は原料・歩留まり・仕入れ値のすべてが動くため、この前提から外れます。作るべきは生産管理の全体ではなく原料の受け入れ記録1か所です。ここがそろえば歩留まりも原価もトレーサビリティも、あとから計算して出せます。設計の要点は魚種・サイズ・産地を品目名に埋め込まないこと。これだけで魚種の切り替えに仕組みが耐えます。
水産加工の数字は、毎年書き換わる
製造業のシステムは、材料と製品の関係が安定していることを前提に組まれています。
この部品を3つ使えば、この製品が1つできる。
ところが水産加工では、同じ魚種でもサイズと鮮度で取れる量が変わります。
年によっては、その魚が揚がらないこともあります。
去年の数字をそのまま今年に持ち込めない業種だということです。
だからこそ、去年の数字を引きずらない作りにしておく必要があります。
既製の生産管理が合わない3つの理由
① 原料そのものが入れ替わる
品目マスタを固定して作ると、新しい魚種を扱うたびに設定をやり直すことになります。
この手間を嫌って、現場は結局Excelで別管理を始めます。
② 歩留まりが日ごとに変わる
同じ工程でも、その日の原料の状態で製品になる量は上下します。
固定された歩留まりを入力させる画面は、現実の記録として役に立ちません。
③ 仕入れ値が相場で動く
原価は「いくらで仕入れたか」で毎日変わります。
年に一度決めた標準原価で見ていると、赤字のロットに気づけません。
Excelに無理をさせている状態のサインはExcel管理の限界にまとめました。
最初に作るのは「原料の受け入れ記録」だけ
全体を作り直す必要はありません。
手をつけるのは入口の1か所です。
原料を受け入れた時点の記録を、1枚の表に集めます。
- いつ受け入れたか(日付)
- どこから(仕入先・産地)
- 何を(魚種・サイズ・規格)
- いくつ(重量・箱数)
- いくらで(単価・金額)
- どのロットになるか(ロット番号)
この6つがそろっていれば、あとの数字はすべて計算で出せます。
逆にここが伝票と手書きのメモに散っている限り、月末に電卓を叩く作業は消えません。
歩留まりは、測るのではなく残す
歩留まりを把握したいと相談されると、多くの方が「測る仕組み」を思い浮かべます。
しかし必要なのは、新しく測ることではありません。
受け入れた重量と、製品になった重量を同じロット番号でつないで残すことです。
入りと出の重量が残っていれば、歩留まりは割り算の結果として後から出ます。
現場に新しい入力を増やさず、もともと発生している記録をそろえるほうが先です。
どの作業を任せられるかの見つけ方は「人がやらなくていい作業」の見つけ方で整理しています。
原価は「そのロットの仕入れ値」で見る
受け入れ記録に単価が入っていれば、原価はロットごとに出せます。
見えるようになるのは次の3つです。
- どの魚種のどのサイズが、いま利益を生んでいるか
- 相場が上がったとき、どこまでなら受けられるか
- 歩留まりの悪いロットが、価格でどこまで埋まっているか
これは月末の決算では手遅れになる情報です。
仕入れの判断をする人が、その週のうちに見られる形にしておく価値があります。
魚種を替えるときに、記録が武器になる
函館では、イカ以外の魚種で加工品を作る取り組みが進んでいます。
とはいえ、地元で食べ慣れていない魚は売り先を新しく探すことになります。
そのときに効くのが過去の記録です。
歩留まりと原価が魚種ごとに残っていれば、新しい商品の見積もりを勘ではなく数字で出せます。
取引先に説明する材料にもなります。
設計上の要点は1つだけです。
魚種・サイズ・産地を品目名に埋め込まないこと。
「スルメイカ大 函館産」という1つの名前にしてしまうと、魚種が増えるたびに名前を作り足すことになります。
それぞれを別の項目として持たせておけば、新しい魚種は値が増えるだけで済みます。
既製品が自社の業務に合わなくなる仕組みは既製SaaSが自社業務に合わない理由で解説しました。
産地とロットの提出を求められたとき
販売先が量販店や輸出向けになると、産地とロットの提出を求められる場面が増えます。
問い合わせは、たいてい急に来ます。
この製品の原料はどこの港のものか。いつ受け入れたものか。
受け入れ記録が残っていれば、ロット番号をたどって答えられます。
残っていなければ、倉庫と伝票を探し回る半日が発生します。
つまりトレーサビリティは、別に用意する仕組みではなく受け入れ記録の副産物です。
入口の記録を1か所にそろえておく価値は、ここにも出てきます。
どこまで既製品を使い、どこから作るか
作る範囲は絞ります。
- 既製品を使う=会計・給与・送り状・衛生管理の記録様式
- 自社の形で作る=原料の受け入れ記録と歩留まり・ロット原価の計算
- まず既製品を試す=受注と出荷の管理
ここでの判断軸は「自社の事情で中身が変わるかどうか」です。
様式が外から決まっているものは買う。自社の原料と契約で変わるものは作る。
小さく作るという選択肢の考え方は既製ツールが合わないと感じたら「小さく作る」という選択肢にまとめています。
港湾側の在庫と保管の話は苫小牧の物流・倉庫業のDXもあわせてご覧ください。
ここまでのまとめ
函館の水産加工のDXで押さえるべき点は4つです。
- 既製の生産管理は、材料と製品の関係が安定している前提で作られている
- 作るのは全体ではなく、原料の受け入れ記録1か所
- 歩留まりは測るのではなく、入りと出をロットでつないで残す
- 魚種・サイズ・産地を品目名に埋め込まない
よくある質問
水産加工業に既製の生産管理システムは向かないのですか?
既製の生産管理は、決まった材料から決まった製品が決まった比率でできる前提で作られています。水産加工では原料の魚種もサイズも歩留まりも毎日変わるため、この前提から外れます。ただし会計や給与や衛生記録は既製品で足ります。自社の形で作るべきなのは原料の受け入れ記録と歩留まりの計算だけです。
歩留まりはどうやって把握すればいいですか?
別に測るのではなく、受け入れた重量と製品になった重量を記録しておけば自動で出ます。ロットごとに入りと出の重量が残っていれば、歩留まりは割り算の結果として後から計算できます。歩留まりを目的にした入力を増やすのではなく、もともと発生している記録をそろえるのが先です。
魚種を切り替えるときにシステムが足かせになりませんか?
品目を固定して作ると足かせになります。魚種・サイズ・産地を品目名に埋め込まず、それぞれ別の項目として持たせておくのが要点です。そうしておけば新しい魚種を扱うときも、項目の値が増えるだけで仕組みを作り直す必要がありません。
函館の水産加工で今いちばん効くデジタル化は何ですか?
原料の受け入れ記録です。いつ・どこから・どの魚種を・いくらでいくつ受け入れたかが残ると、歩留まり・原価・在庫・トレーサビリティのすべてが後から計算できます。原料が年ごとに変わる業種ほど、記録が意思決定の材料になります。
「去年の表が今年は使えない」から、ご相談を
Ridge Forge は札幌を拠点に、社内にIT担当がいない北海道の中小企業の業務改善に伴走しています。
既製品に業務を合わせるのではなく、変わり続ける前提を織り込んだ仕組みを作る進め方を得意としています。
まずは受け入れの伝票と月末の計算を見せていただき、どこを記録にすれば数字が出るかを一緒に整理します。
業務システムの考え方はシステム開発のページにまとめています。
初回のご相談は無料です。